【第一の課題】
親に会って今までのありがとうを伝える
そうして、自分の誕生日を迎えた。
その日は朝から雨だった。
会社から一日休みをもらい、
実家のある京都に来た。
久しぶりだ。
大学で一人暮らしを始め、
会社に入り、
そこでもずっと一人暮らし。
実家に帰るのは久しぶりだった。
昼過ぎ京都の駅についたが、
家に向かうのは足が重く、
「まずは腹ごしらえからだ」と、
自分に言い聞かせてカフェに入った。
・・・・・
今までごめんなさいと
産んでくれてありがとうか
・・・・・
もう、言ったことにして
帰っちゃおうかな。
こんなに仲が悪いのに、
そんなこと言えるか?
だいたい、そんなこと言わなくたって、
自分はどんなことでもするし、
できる男なんだ。
そんな風に言い訳ばかりが
頭に浮かぶ。
思い腰をあげて夕方前、
ついに実家へ向かった。
懐かしい場所。
ここは元々は大好きだった
おばあちゃんの家。
毎年新幹線でおばあちゃんの家に
行くのが楽しみだった。
なのに、今はここに来るのが
こんなに足が重いとは。
思い切ってチャイムを鳴らす。
出かけてていませんように…
ここまで来てまだ決心がつかない。
がちゃっとドアが開いて
おかんが顔を出す。
「あら、どうしたの?
今日は誕生日なのに、京都に仕事?」
そんなわけないじゃん
と思いながら家にあがる。
普段あまり会っていないからか、
思ったよりも長く話すことができた。
仕事の調子はどう?
結婚するような相手はいるの?
自分は最近こんなことをしているとか。
おばあちゃんは施設に入ってるけど、
とりあえず元気だとか。
久しぶりにおかんと
こんな話をした気がする。
でも、ふときづくと気まずい沈黙。
時計をみるともう19時だった。
20時過ぎの新幹線に乗らないと
水戸には帰れない。
もう、いい加減言うしかない。
一生で一番勇気を振り絞った
時だったかもしれない。
お、おかん、
本当に今までごめん。
冷たくしたし、
ひどいことも
たくさん言って。
…
…
…
う、産んでくれて
ありがとう。
…
この家に生まれて
本当に良かった。
おかんの子供で
本当に良かったよ。
あ、ありがとう。
…
…
…
なかなか言葉にならなかったけど、
言葉にするうちになぜだか涙が溢れてきた。
泣くつもりなんて全くなかったし、
適当に言うだけ言ってすぐに
逃げようと思ってた。
だけど、いつのまにか、
おかんも泣いてる…
びっくりするくらい涙が出た。
でも、それと同時になんだか
心が軽くなったんだ。
おかんも、しきりに
「ありがとう」と繰り返した。
結局、新幹線には間に合わず、
夜行バスで帰った。
家の外に出ると、何時の間にか
雨もあがって 綺麗な星が見えた。
それから先、世界の景色が
明るくなったきがして、
すべてのことに感謝が
できるようになったんだ。
もう、自分のやりたいことを
我慢するのはやめよう。
自分が思った通りに、幸せになろう。
もっともっと自由になって
豊かになって、
親に本当の恩返しをしよう。
純粋にそう思うことができた。
ここから、壮絶な修行と、
起業への長い道のりが始まったんです。